ホラサスDAYS

映像ジャンルの閉塞感を打ち破る、まったく新たなエンタテインメント

【白石晃士監督『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズ】
コワすぎ! ホラサスDAYS編集部と以前からお付き合いのあるベテラン編集者の宇都宮秀幸氏。

長年、日本人なら誰もが一度は手に取ったことがあるであろうあの某有名雑誌や、映画関係の出版物に携わっている宇都宮氏なのですが、

実はかなりのコアなホラーファンという事実が判明。

「ちょっとそれ早く言ってくださいよ~!」ということで、先日ホラサスDAYSでもご紹介をした、今をときめく『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズに関してレビューを書いてもらったよ!


愛と狂気のホラサスレビュー

記念すべきvol.1! はじまりはじまり~ヽ(´∀`)ノ

<『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズ>

“Jホラー”の常識を打ち破る意欲作 その“オリジナリティへの執念”とは…!?

 “Jホラー”という言葉がすっかり廃れたように思えるいまでも、レンタル店の棚をふと見れば俗に「心霊もの」と呼ばれるDVDスルー作品はそれなりのスペースを相変わらずキープしている。

そしてその多くを占めるのが、老舗シリーズ『ほんとにあった! 呪いのビデオ』をはじめとした、フェイク・ドキュメンタリー作品である。

 映画ともドラマともつかない日本独特のこのジャンルから、『ノロイ』(05)『オカルト』(09)で知られる白石晃士監督の意欲作『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズは生まれた。

体裁としては、ユーザーから送られた怪異な映像を制作会社のディレクター工藤とアシスタント市川が追うという、投稿映像ものではある意味お馴染みの形式が取られている。だが、『コワすぎ!』が他の二番煎じの作品と違うのはここから。

よくある設定を土台としつつ、心霊投稿ものに慣れきった視聴者の予想を次々と裏切ってみせるのだ。
コワすぎ!
 各巻で扱われるのは、口裂け女、幽霊、河童、トイレの花子さん、お岩さんなど、和製ホラーでは繰り返し題材となってきたテーマだ。『コワすぎ!』はホラー・ファンがこれらに対して持つ先入観を逆手に取り、毎回、見始めた時には想像もつかなかったラストに着地する。

具体的にどう観客を裏切るかは観てもらったほうがいいと思うが、ホラーに限らず予想の範囲内に収まる大人しい作品が目立つ邦画界において、まずこの大胆さとオリジナリティへの執念に拍手を贈りたい。

『コワすぎ!』には観るものをゾッとさせる瞬間も確かにあるが、必ずしも怖さだけに拘っているわけではない。

幽霊や怪物などの魔物に対しても殴る・蹴る・車で轢くといった物理的暴力で排除しようとする狂気のディレクター工藤の特異なキャラクターに代表されるように、ある種の過剰さ、意外さが生み出す“笑い”の要素さえあるのだ。

一見いわゆるJホラーの一派に属するようでありながら、『リング』『呪怨』に連なる本流とはまったく異なるエンタテインメントを目指しているのが分かる。

コワすぎ!
シリーズを追うごとに広がっていく作品世界の異様なスケール

 もうひとつ『コワすぎ!』の優れた点をあげるなら、相当な低予算と思われるにも関わらず、逆に作品世界のスケールは異様なまでに大きく、深く感じられるということだ。

『FILE-03【人喰い河童伝説】』のクライマックスに登場する、沼に浮かび上がる巨大な「あるもの」の映像。
または、シリーズ最高傑作といわれる『FILE-04【真相!トイレの花子さん】』における、めくるめく時空間の移動など、『コワすぎ!』の世界には恐らく作者さえも説明できないのではないかと思われる、アナザー・ワールドの人知の及ばぬ広がりが見事に表現されている。

『コワすぎ!』シリーズはそれぞれが独立した作品ではあるが、このアナザー・ワールドの広がりを背景とした、ホラーにあるまじき大長編ストーリーともいえる。
コワすぎ!
本来、こうしたジャンルはユーザーの「とにかく怖ければいい」という刹那的な需要を満たすためのその場限りの商品である。だが、暴走に暴走を重ねる展開はなにやら壮大な物語を予感させ、冒頭では狂言回しに過ぎないと思われたディレクター工藤は内面に秘密を抱えたれっきとした主人公と化していく。

 シリーズのある1作の劇中で、取材のためなら殺人さえも辞さない覚悟を見せる工藤ディレクターは、「そこまでやったら犯罪です!」と制止するアシスタントに向かって「じゃあ海外なら売れるだろ!」「日本はだからダメなんだ!」と開き直ってみせる。

この叫びこそ、白石監督自身の硬直した映像業界に対する苛立ちと、『コワすぎ!』制作の決意表明なのではないか。

 それにしても、「心霊投稿もの」という既存のマーケットを土台として、規模はまだまだ小さいながらも、ゲリラ的に従来のホラー・マニアではない新たなファンと市場を開拓しようとするタフさは実に頼もしい。
コワすぎ! ↑ 『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!史上最恐の劇場版』初日舞台挨拶の様子 
  大勢のファンであふれかえり、会場は大盛り上がりだった


 先日、『コワすぎ!』シリーズの旧作が劇場版の公開を機にニコニコ生放送で無料配信され、予想を越える多数の視聴者を獲得した。筆者もこの機会にと再見してみたが、リアルタイムで次々と流れる視聴者コメントと共に鑑賞する『コワすぎ!』には、レンタルDVDでひとりで観るのとは違った、新鮮な楽しみと驚きを感じた。

素人が配信する生々しい実況映像に慣れ親しんだニコ生ユーザーと、擬似的なリアルさを売りとするフェイク・ドキュメンタリーという手法は非常に相性がいいのかもしれない。

『コワすぎ!』は劇場版の好評を受けて、シリーズ続行が決定していると聞く。
内容面での更なるチャレンジはもちろん、こうしたビジネスモデルの革新という意味でも、ぜひ映像ジャンルに漂う閉塞感を、本作の荒ぶるディレクター工藤さながらに打ち破ってほしい!

文:宇都宮 秀幸(トライワークス)

宇都宮氏の最近のオススメ&注目ホラサスは?
今公開中の鶴田法男監督の『Z~ゼット~果てなき希望』ですね!8月6日から発売のDVD-BOXもたのしみです!!

映画『Z~ゼット~』 完全版(全6巻レンタル、DVD-BOX発売)
総監督:鶴田法男 発売・販売元:エスピーオー

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オールナイトにドキュメンタリー映画祭『コワすぎ!』旋風がヤバイぞ!

<『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズ>

<ちょいちょい出てくる「工藤さん」とは・・・>
 工藤 仁
ディレクター。この作品の中で群を抜いてぶっ飛んでいる存在。
非常に乱暴な性格でキレ易い。人間でも怪異でも関係なく暴力を振るう。
押しが強く、周囲を引っ張っていく・・・が、肝心な所は市川や投稿者たちに任せる。
NEW!→ 劇場版・序章では新たにピッキングを覚えた。
ニコニコ大百科(仮)より一部抜粋)
<そもそも『コワすぎ!』ってなんじゃい??という方へ>
 戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
白石晃士監督によるPOVホラー作品シリーズ。
『投稿されてきた不可解な映像から、都市伝説や怪異の謎を解明する為に、検証取材を行うが、取材が進むにつれて、怪奇現象が起こっていく・・・!』という、よくある展開が大きな流れである。
取材班(特に工藤)、霊能力者、怪奇現象の全てが、壮大でぶっ飛んでおり、怖いはずの怪奇現象が逆に笑えてしまうという事態を引き起こし、いろいろな意味で一線を画している。
むしろホラーの皮を被った別の何かかもしれない。
ニコニコ大百科(仮)より一部抜粋)
<禁断の6作一挙上映!『コワすぎ!』発狂オールナイト>

【開催日程】8月2日(土)21:30 開演(21:15 開場)~翌6:35(予定)   
コワすぎ!オールナイト【会場】池袋 新文芸坐 
【料金】一般 2600円 前売・友の会 2400円
【トークショー登壇者】
白石晃士監督(田代正嗣役)
大迫茂生さん(工藤仁役)
久保山智夏さん(市川実穂役)

【上映作品】
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-01 口裂け女捕獲作戦』
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-02 震える幽霊』
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-03 人喰い河童伝説』
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-04 真相!トイレの花子さん』
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 劇場版・序章 真説・四谷怪談 お岩の呪い』
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版』

※FILE-01のみゲストによる生コメンタリー付き上映
※「スピンオフ・エピソード」全5話(各5分程度)上映あり
※全作品BD上映
全配給:「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」上映委員会
(C)ニューセレクト

山形国際ドキュメンタリー映画祭 2015 プレイベント
納涼コワすぎ!まつり
怪異の表象~フェイク・ドキュメンタリーを楽しむ~

【開催日程】2014年9月5日(金)~7日(日)
【会場】ソラリス(山形市城南町1丁目 霞城セントラル地下2階)
【トークショー登壇者】
白石晃士監督
黒木あるじ氏(実話怪談作家)
【上映作品】
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-01 口裂け女捕獲作戦』
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-02 震える幽霊』
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-03 人喰い河童伝説』
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-04 真相!トイレの花子さん』
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 劇場版・序章 真説・四谷怪談 お岩の呪い』
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版』

 上映プログラム、鑑賞料金など詳細はこちら
◆納涼コワすぎ!まつり 怪異の表象~フェイク・ドキュメンタリーを楽しむ~

主催:認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭
助成:山形市芸術文化協会(山形市芸術祭特別参加)
作品提供:ニューセレクト
協力:フォーラムマルチプレックスシアターズ


 
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