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『放送禁止』は、映像を通じた作者からの“挑戦”である

『放送禁止』は、映像を通じた作者からの“挑戦”である 他のフェイク・ドキュメンタリーとは一線を画す自由な発想

あらためて言うまでもないが、1990年代はじめに生まれた、いわゆる“Jホラー”の最大の発明は伝統的な和製怪談映画の様式美に囚われず、実話を思わせるドキュメンタリー的なテイストを持ち込んだことにある。

小中千昭(『邪願霊』)、鶴田法男(『ほんとにあった怖い話』)らを始祖として、黒沢清、高橋洋、中田秀夫らによって確立された、心霊実話ものの作風と方法論は次世代の映像作家たちにも大きな影響を与えていった。

2000年代以降、すっかり定着したJホラーのファンや市場を出発点として、それぞれ異なる新たな才能を開花させていった監督たちがいる。

あくまで私見だが、Jホラー第一世代に連なる次世代の代表格を3人挙げるとしたら、白石晃士監督(『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズ)、三木康一郎監督(『トリハダ』シリーズ)、そして今回紹介する『放送禁止』シリーズの長江俊和監督になるのではないだろうか。

2003年にフジテレビの深夜枠で秘かに放送され、やがてシリーズ化されるに連れてカルト的な人気を獲得していった番組『放送禁止』。

「ある事情で放送禁止となったVTRを再編集し放送する」という刺激的な設定と、自然で生々しいタッチゆえか、開始当初はこれがフェイク・ドキュメンタリーであることに気が付かず、通常のドキュメンタリーと誤解したまま見始めてしまい、オチも含めた異様な展開に驚いた視聴者も多かったと聞く。

なにを隠そう筆者もそのひとりで、夜中に何気なくつけたテレビに映った失踪した大学生を追う取材レポート(らしきもの)に、これが本物かフィクションか見極められないまま、その面白さに引き込まれていったものだ。この第1弾を偶然目撃した際の、経験したことのない強烈なインパクトは今でもはっきりと覚えている。
放送禁止 『放送禁止』が扱うテーマは例えば「失踪人」「大家族」「隣人トラブル」「ストーカー」といった、いかにもテレビの野次馬ドキュメンタリー番組がネタにしそうなものが多い。これらを劇中の取材班が追ううちに、やがてありふれた事件の裏に隠された意外な真実に突き当たる…というのがシリーズの基本フォーマットである。

『放送禁止』が非常にユニークなのは、この“意外な真実”を劇中では、あえて種明かし的に説明しようとしない点にある。作品の最後に映される「あなたには真実が見えましたか?」というテロップに象徴されるように、視聴者はドラマ内に巧妙に仕込まれた手がかりをヒントに、事件の真相を推理するしかないのだ。

この宙ぶらりんに取り残される感覚は、しかし決して消化不良にはつながらず、むしろ果たして自分の推理は正しいのかどうか? という新たな興味と興奮を掻き立てる。視聴者は一緒に作品を観た人との会話や、ファンによるネットでの解説を通じて、ようやく“隠された真実”に納得し、あらためてゾッとさせられるという仕組みだ。

いわばドラマを通した映像作家からの挑戦であり、バラエティ番組も手掛ける長江監督ならではの、他のフェイク・ドキュメンタリーとは一線を画す自由な発想といえる。
放送禁止
“他人事でない不安感”こそ『放送禁止』の人気の秘密!?

長江監督作品には、意識的か無意識的かは分からないが、ある共通したモチーフがあるように思える。それは「人間も物事も決して見た目通りではない」という、ある種の恐れと不安感のようなものだ。

穏やかに見えた人物が極悪人だった。被害者と思われた人が実は加害者だった。ある人間から見た現実と、別の人間から見た現実が正反対のものだった……。

こうしたどんでん返し的な物語展開は、ミステリー作品としての面白さを与えてくれるだけでなく、普段、社会人として家庭人として多少なりの仮面を被って生きなければならない我々自身のストーリーとして、他人事ではない切実さをもって迫ってくる。ここにこそ『放送禁止』シリーズの根強い人気の秘密があるような気がして仕方がない。

最新作である公開中の映画『放送禁止 劇場版3「洗脳~邪悪なる鉄のイメージ~」』でもまた、題材となっているのは「洗脳」という、ひょっとしたら誰もが陥るかもしれない、不安を呼び起こすキーワードだ。

ふとした事から強い洗脳を受けて抜け出せない主婦と、脱・洗脳を試みる心理セラピスト。そして脱・洗脳の過程を記録するビデオジャーナリスト。いかにも『放送禁止』らしい設定を揃えた今作は、5年ぶりの新作ということもあってか、原点であるテレビ・シリーズのミニマムで秘密めいた雰囲気が戻っているかのような印象を受ける。物語の中盤で起こる、世界がぐるっとひっくり返るような驚きの展開は、『放送禁止』健在を感じさせた。
放送禁止 長江監督の、観客を裏切り、驚かせる新たな試みは続いている。先日深夜に放送されたフェイク・ドキュメンタリー・ドラマ『SHARE』では、なんとドラマとスマホとの連動に挑戦。劇中の監視カメラの映像をスマホを通じて視聴者が覗き見るような仕掛けや、事件のカギを握るある「答え」をスマホで解答させるなど、野心的なチャレンジが見られた。

さらに出版の分野では、フェイク・ドキュメンタリー・ノベルとでも呼ぶべき『出版禁止』(新潮社)も執筆。ある事情で世に出なかったルポルタージュという設定のもと、作家の心中事件の真実を巡って読者に挑戦状が突きつけられる。いわばこれは“読む『放送禁止』”であり、従来のミステリーファンはともかく、新たな『放送禁止』を待ち望む長江ファンには待ってましたの1冊だろう。

長江監督の精力的な活動は注目に値するが、一方、擬似ドキュメントの方法論自体はすでに一般的であり、かつてほどの刺激はもはやなくなっている気もする。個人的には、フェイク・ドキュメンタリーの形式に拘らない、長江監督ならではの斬新な手法によるフィクション作品が観たいと強く願う。きっとまた、夜中にふとテレビをつけた何も知らない人々を驚かせてくれるはずだ。

文:宇都宮 秀幸(トライワークス)

STORY
あることがきっかけで強い洗脳を受けた元主婦、江上志麻子。彼女を襲った、幸せな家庭を壊した本当の真実とは?全てを明らかにするため、志麻子の脱洗脳を試みる心理セラピスト小田島霧花。志麻子の親友であり、ビデオ・ジャーナリストの鷲巣みなみが、洗脳を解く過程をカメラで追う。そこに映し出された恐るべき事実とはー。



『放送禁止 洗脳~邪悪なる鉄のイメージ~』
公式サイト:http://housoukinshi.ponycanyon.co.jp/
©2014「放送禁止 洗脳~邪悪なる鉄のイメージ~」製作委員会

 
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