ホラサスDAYS

本当に恐ろしくて醜いのは、ゾンビよりも人間である─。

ハンガーZレビュー
熱狂的なファンのみならず、一般層にもずいぶんと定着した感のある「ゾンビ映画」というジャンル。

「死人が蘇って、生きている人間を食べようと襲ってくる」という基本的な前提はそのままに、いまやゾンビの感染経路や撃退方法、シチュエーションやエピソードなど、作品ごとに趣向を凝らしたさまざまな設定や描写が見られるようになった。
その様子はもはやアイデア合戦といっても良いほどで、日本でも毎年国内外のゾンビ映画が公開され、多種多様なゾンビの姿が楽しめる状況にある。

そんな中で新作ゾンビ映画『ハンガー・ゼット』が打ち出したのは、「食糧危機を覚えたゾンビが、食糧である人間に子作りをさせて繁殖を目論む」という、なんともキテレツな設定。
ついにゾンビは、人間を喰らうだけでなく養殖までするようになったのだ。

この設定だけを取り上げると、とてつもなくインモラルなエログロ・ホラーを想像してしまいがちだが、実際にはコミカルな要素が満載で、ピースフルなメッセージまで込められた異色作である。

本作がどうやら「普通のゾンビ映画」ではないことは、オープニングから早々に察することができる。

『ハンガー・ゼット』本編は、いきなり口元が血まみれのゾンビのアップからスタートする。
必死にゾンビから逃げるのは、主人公のとしゆきだ。なぜか「スキヤキ~」と叫びながら襲い来るそのゾンビを退治したのもつかの間、「スシ~」「テンプラ~」「トンソク~」と絶叫しながら、新たなゾンビが猛ダッシュで大勢押し寄せてくる。

なぜゾンビは、食べ物の名前を叫びながら襲ってくるのか?
その理由は、としゆきの心の声によってすぐさま明らかにされる。

「あなたが死ぬ前に食べたいものはなんですか?
 思い浮かべてください。
 それが、あなたがゾンビになったとき叫ぶ言葉です。」


これまでのゾンビ映画では、「生きていた頃の習性がゾンビ化した後も踏襲される」というパターンが多く見受けられた。しかし本作では、「死ぬ前に欲していた食べ物がゾンビ化した後のセリフになる」という、肩の力が抜けた設定が採用されている。

襲いかかるゾンビたちはビジュアルこそ恐ろしいものの、この設定によって、どこか滑稽さを湛えているように見えるのだ。
このとしゆきの心の声によって、上映開始数分で、本作の異色さを感じ取ることができるだろう。
同時に「食べる」という行為が印象づけられ、これから起こる大惨事を予感させる。オープニングから掴みはバッチリ、といったところか。

そして物語の舞台は、早くも衝撃的なあの空間へ…。
ゾンビに追われていたとしゆきが間一髪逃げ込んだ場所は、なんとゾンビが人間の繁殖を目的に運営する“人間牧場”だったのだ。

衝撃的な名前の通り、そこではゾンビが捕獲してきた人間たちが、ゾンビの“食糧”確保のために、毎日子作り=交尾を強制されているのである。
ただし交尾さえしっかりこなしていれば、命の保証はもちろん、世話役のゾンビたちによって十分な食事と住環境が提供される。

どこまでも非人道的な“人間牧場”であるが、主人公としゆきの心は揺れ動く。なぜなら、彼は童貞であるからだ。
「毎日交尾」という刺激的な響きと、パートナーに選定された美女・みつえを前に、としゆきはつい性欲に目がくらんでしまう。

一歩外に出れば大勢のゾンビが徘徊する世界において、“人間牧場”はインモラルな最後の楽園か?

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主人公を「へたれ童貞キャラ」に設定することで、この葛藤に説得力が生まれている(どう考えたってオカシイのだが)。
コミカルさも倍増し、“人間牧場”の実態も面白おかしく描かれるので、映画独自の設定も難なく把握することができる。

そんな“人間牧場”を取り仕切る「リーダー」は、なんと言葉を話すゾンビ
世話役のゾンビたちにとってリーダーの言うことは絶対で、彼がいる限り、“人間牧場”にいる人間が襲われる心配はない。

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「リーダー」の指示で動くのは、人間の男・赤坂。親しみやすく頼りがいのあるキャラで、としゆきの心をつかむが…この人物がかなりの曲者である。実は、“人間牧場”の乗っ取りを狙っていたのだ。

ついに露見する赤坂の悪の顔と、極悪非道な仕打ちの数々とは?
謎多き「リーダー」の正体、そしてゾンビたちを従えることのできる、驚きの真相とは?
そして危機的状況下でみつえに恋をしたとしゆきは、最後まで彼女を守りきれるのか?

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物語はテンポ良く進んで行き、あれよあれよと言う間に怒涛のクライマックスへと展開する。
ホラー・ゾンビ映画ファンにとってはお待ちかね、絶え間なく響き渡る悲鳴、飛び散る血しぶきや肉片も“出血大サービス”。最後の戦いのシーンは本作最大の見所といえるだろう。

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本当に恐ろしくて醜いのは、ゾンビよりも人間である─。
ゾンビ映画における“おなじみ”ともいえる教訓は、一見ハチャメチャと思われる本作でも十分に踏襲されている。
最終的には、ゾンビと人間が争うことなく平和に生きる道筋にまで言及しており、「ゾンビを通じてドラマを描く」という作り手の気合が伝わってくるようである。

また、つい風変りな設定やテンションの高さに目が行きがちな本作であるが、俳優陣も非情に味のある演技を見せてくれている。

主人公・としゆきを演じるのは、『仮面ライダーディケイド』や舞台『弱虫ペダル』の出演で注目の若手俳優、村井良大。
スタートこそヘタレキャラではあるが、愛する女性を守るべく奮闘する、まっすぐな青年を好演している。童貞ならではのニヤニヤ感もいとおしく、さらに新たなファンを獲得することは間違いないだろう。

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主人公が想いを寄せるみつえ役には、2013年ミスヤングチャンピオン4代目グランプリの小田島渚。愛を貫き通そうとする一途さと、勇気を持ち合わせたヒロインを熱演している。クライマックスからエンディングにかけて、彼女には「まさか」の事態が連続するため見逃しは厳禁だ。

ほかにも、「2年間で双子を2回も出産」した“人間牧場”の女王的存在を演じる、映画『片腕マシンガール』『女体銃 GUN WOMAN』の亜紗美など、魅力的なキャストがばっちり脇を固めている。

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ゾンビ映画『ハンガー・ゼット』は、1週間限定のレイトショーにて公開される。
比較的とっつきやすいゾンビ映画として、幅広い層にとっても見やすい作品になっているが、奇妙な設定の国産ゾンビ映画として、ゾンビファンも見逃せないところ。

上映時間74分というコンパクトさも、気軽に足を運びやすい要因になるのではないだろうか。新感覚のゾンビ映画を、ぜひ映画館で体感してほしい。

文:ゾンビライター 香椎

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STORY
世界がゾンビで溢れかえり人間が喰い尽くされてしまう中、ゾンビ社会には食糧危機が訪れていた。「人間を増やさねば…」と気が付いたゾンビたちは食べることを我慢し、ある対策を打ち出す。それこそが、食糧である人間を捕獲して繁殖させる“人間牧場”だった。捕獲されたひ弱な青年としゆきは、非人道的な行いに最初こそ抵抗するも、清楚で美しいみつえをパートナーにあてがわれ性欲に目がくらむ。一方、ゾンビたちは食糧確保のために田を耕し、料理を作り、人間に健気に奉仕するが、“人間牧場”の乗っ取りを狙いクーデターを計画する人物が現れ…

9月27日(土)~10月3日(金)ユーロスペースにて1週間限定レイトショー !



イベント情報

【日時】9月27日(土) 21時10分~(上映前)
【会場】 ユーロスペース(東京都渋谷区円山町1‐5 TEL 03-3461-0211)
【登壇者】村井良大、小田島渚、新納慎也、亜紗美水谷あつし、月足直人監督
【料金】〔特別料金〕2,000円均一

※9月27日(土)ユーロスペースでの初日舞台挨拶チケットは、当日券のみの発売となります。
当日のAM10:30より劇場窓口にて入場整理番号付き当日券を発売いたします。

◆追加イベント◆
9月29日(月)21:10~小田島渚特別トークイベント決定
『まるで彩才!?それともヤンチャン?月曜夜はスペシャルナイト!』
トークショーおよび、お席からの撮影会
【登壇者】小田島渚
【ゲスト】平田弥里、百瀬美鈴、是永真由 (順不同・敬称略)
出演:村井良大、小田島渚、新納慎也、亜紗美、水谷あつし 他
監督:月足直人 
配給:新東宝映画

9月27日(土)~10月3日(金)ユーロスペースにて1週間限定レイトショー
©2014『Hunger Z』製作委員会
公式サイト:http://hunger-z.com/

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